ムース食とはどんな食事?
ムース食とはどんな食事?
~介護食における基礎知識~
監修:管理栄養士 伊藤
清世 先生
制作・編集:メディバンクス株式会社
毎日楽しみにしていた食事が、最近なんとなく食べづらそう。そのような状態は、食べるご本人だけでなく、介護をするご家族にとっても心配なものです。食が細くなる理由は病気や加齢など様々ですが、原因によっては食形態の工夫で改善できるケースもあります。ここでは介護食の選択肢として今注目されている「ムース食」にスポットを当てながら、その取り入れ方などについてご紹介します。
1.もし食べづらさに気づいたら
食べづらい状態とその兆候
「食べづらい」という表現の中にはいろいろな状態が含まれます。食べるという行為は、まず目や脳で食べ物を認知して、口の中に取り込み、噛み砕き、飲み込みやすいまとまりにしてから飲み込むのですが、今回はその中でも主に「噛む力(咀嚼力)」「飲み込む力(嚥下力)」の低下によって起こる食べづらさに焦点を絞ります。噛む、または飲み込む機能に何らかの問題がある場合、食事中に見られるむせや咳き込み、ご本人からの「噛めない」「飲み込めない」といった訴えで食べづらさに気づくことが多いと思います。しかし、そのほかにも、噛む力、飲み込む力が低下していると次のような兆候が現れる場合があります。
●食べる量が減ってきた。食べ残しが増えた。
●口の中で食べ物をいつまでも噛んでいる。
●飲み込んだあとも食べ物が口に残っている。
●食べることに意欲がなくなっている。
また食事中だけではなく、普段の生活でも以下のような様子が見られたら口の中の機能低下のサインかもしれません。
●話しているときに入れ歯がずれる、落ちる。
●話すときの滑舌が悪くなった。
●しゃべり声が小さくなった。
こうした兆候を伴って食が進まない場合は、噛む力や飲み込む力が衰えている可能性があります。医療機関やご本人とも相談のうえ、より食べやすい食形態を取り入れるタイミングともいえます。

ご本人の様子を見る、聞くが大切
食べにくそうな様子が見られたら、介護者やご家族はどうすればよいのでしょうか。まずは食べ方をよく観察し、できればどんなふうに食べづらいのかを聞いてみることをおすすめします。食べ物を噛めているか、飲み込めているか、飲み込んだものが口の中に残っていないかをチェックすることで、食事にどんな工夫をすればよいかのヒントになります。また、よかれと思って急に食事をやわらかくしたり、水分にとろみをつけたりしても、好まれないケースもあります。どのような食事を望んでいるのか、ご本人の気持ちを聞くことは、食事形態を考えるうえでとても大切なことです。特にご高齢の方は、食べたことのない物や、初めての味や舌ざわりには抵抗を感じることもしばしばです。「食べやすい=食べてくれる」とは限らないので注意が必要です。
食べやすい食形態とムース食
食べづらさの原因が、噛む力や飲み込む力の低下によるものと分かり、なおかつご本人にも受け入れられそうであれば、食べやすさに配慮した食事を取り入れてみましょう。食べづらさの状態に応じて、食事のやわらかさにはいくつかの段階がありますが、これからご紹介するムース食は「舌でつぶせるやわらかさ」に該当します。歯で食べ物が噛みにくそうである、食事を細かくしても飲み込むときにうまくゴックンがしにくい、飲み込んだあとも食べ物が口に残っている、食べることに意欲がない、そのような状態が見られたら、ムース食を考えてもよい段階といえます。
2.ムース食はやわらかくても“形”のある食事
ムース食とはどういう食事か
ムース食とは、通常の料理をペースト状にすりつぶし、ゲル化剤(※)などを加えて、型に入れて再形成した食事を意味します。舌でつぶせるぐらいのやわらかさに仕上げられ、飲み込む際に口の中でまとまりやすいので、噛む力、飲み込む力の両方が低下した方におすすめできます。施設によっては、ソフト食、やわらか食などと呼ばれていることもあります。
※ゲル化剤……食品をゼリー状やムース状に固めるための食品添加物。

ムース食のメリットいろいろ
ムース食の最大のメリットは、歯で噛むことのできない方でも、舌やはぐきでつぶせる力があれば容易に食べられるという点です。また、ムース食は形があるため見栄えが良く、食事として楽しむことができるのも魅力です。材料を工夫すれば栄養補助にもお使いいただけます。さらに、ムース食はやわらかな普通食とペースト状の食事の中間に位置しているため、その移行期の食事として提案できるという便利さがあります。手作りの介護食に市販のムース食をプラスすればバリエーションも楽しめて、市販品ならではの見た目や彩りの良さで、お誕生日や行事食として楽しむこともできます。
ムース食はこんなときにも
上でご紹介したようにムース食は、噛む力、飲み込む力が低下した高齢者や要介護者はもちろん、口腔内疾患で普通食が食べづらい方、術後等の回復期にある方、または入れ歯が破損してしまったときなどの応急食としても便利です。そのほか、市販のムース食であれば賞味期限が長いものが多いので、高齢者や要介護者のいるご家庭での災害時用の食料ストックにも活用できます。


3.様々な場面で活用されるムース食
病院や施設でも導入が増えています
病院や老人ホームなどの大型施設から通所リハビリテーションなどの小規模施設まで、近年では様々なところでムース食が取り入れられています。大型施設では大量のムース食は調理に手間がかかる、また小規模施設においては厨房を持たないところも多くあることから、市販のムース食が人気です。導入後は、調理する側の負担が軽減された、食べる速度が速くなったなどのメリットが報告されています。
在宅介護にムース食を取り入れるには
ムース食はご家庭でも作ることが可能です。手作りのムース食は、食べ慣れた家庭の味を、食べやすい状態でいただけるので、食べる方にはとても嬉しいものです。作る側にとっては日常のおかずにプラスアルファの手間が必要にはなりますが、お手製の食事で食欲が取り戻せたり、栄養状態が改善されるのはとても喜ばしいことです。ご本人の状態に合わせて、ご自身も心身に余裕のあるときに無理なく試してみることをおすすめします。また、ときには市販品も上手に活用して、味付けの参考にしたり献立のバリエーションを楽しむようにしてください。次号以降のコラムでは、さらに詳しいムース食に関する情報と、ご家庭で作りやすいレシピもご紹介します。
食の楽しさを広げるために
寝たきりの方や、病の床にある方、どんな方にとっても食事のひとときは楽しく、幸せな時間であってほしいと願います。ムース食はその一助になる画期的な食形態であり、メニューのバリエーションも増やせる大変便利な食事です。しかし、使いやすいからと多用してしまうと、知らず知らずのうちにご本人が飽きていたり、口の機能の向上や低下を見過ごしてしまうケースもあります。ムース食を効果的に楽しんでいただくためにも、ご本人に寄り添い、常に見守りながら無理のない介護食に取り組んでください。

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